桃源郷的運動会







、おはようございます。」

「ん〜…おはよう八戒。」

大きく布団の中で伸びをして、今や当たり前ともなっている八戒のモーニングコールで目を覚ます。
あれ?でも今日はそれ以外にも何だかいい匂いがする。

は…動きやすい服って持っていましたっけ?」

「動きやすい?…んーある事はあるよ。」

「それじゃぁ今日はそれに着替えて皆で出かけましょうか。」

皆でお出かけ?ベッドから降りてタンスから今日着る服を出しながら、珍しく八戒が軽装だという事に気付いた。
どんなに暑い時でもシャツのボタンを第一ボタンまでしっかり留めてる八戒が今日はTシャツ着てる…珍しいなぁ。

部屋の空気を入れかえる為窓を開けていた八戒が、首を傾げているあたしの前に1枚の広告を差し出した。
そこに書かれている文字はいつもの様に中国語だけど、その一部に読める文字…と言うか漢字が含まれていた。

「運動…会…運動会!?

「今日はこの地域の町内会主催の運動会があるんです。このとおりお弁当も作りましたし、応援も呼んであります。」

「お、応援!?」

「おっはよー!」

勢い良く部屋の扉を開けて一目散にあたしに飛びついてくる茶色い髪の少年。

「悟空?」

「あー!八戒これ今日の弁当v」

「えぇそうですよ。悟空が頑張ってくれると言うので僕も頑張っていっぱいご飯作りましたからね。」

「やりぃ♪」

「おい八戒そろそろ時間じゃねぇか?」

悟空が開けっ放しにした扉の影から悟浄がひょっこり顔を出した。
その頭は長い髪が邪魔にならない様簡単にゴムでとめてある。

「あぁもうそんな時間ですか。それじゃぁ、用意が出来たら居間に来て下さいね、そうしたら出発しましょう。」

「あ、うん」

パタンと閉じられた扉の向こうでははしゃぐ悟空とそれをからかう様に喋る悟浄、苦笑するような八戒の声が聞こえた後に…何時も聞こえるハリセンの音が聞こえた。

「…運動会、ねぇ…。」










「…俺は何もせんぞ。」

シートを引いた上にいつもの格好で不機嫌そうに煙草を吸っている…三蔵。

「どーせ出たってビリに決まって…ってすぐに銃取り出すの止めろよ!こっの鬼畜生臭坊主!!」

「お前が消えた方が貰われる商品も浮かばれると思うが?」

「二人とも、町内会の席で喧嘩は止めて下さいね。あぁどうもすみません、お騒がせしてしまって…」

「なぁ、もうこれ食ってもいい?」

「ダメだよ悟空、これお昼のお弁当だよ。」

「でも俺腹減ったー!!」

「あ、。こちらのバスケットにあるサンドイッチを悟空にあげて下さい。」

悟浄と三蔵の睨み合いの間に入りつつ周囲の人と和やかムードを作っている八戒が、自分の後ろに置いてあるバスケットを指差した。
それは…大きさ的に良く釣りに行く人が持ってるクーラーボックス並みの大きさだった。

「…これ、全部悟空のおやつ?」

「えぇ、そうですよ。でも悟空は際限無く食べちゃうんでが適度な量をあげて下さいね。」

「う、うん。」



そう言われてまず一番に思ったのは…飼育係。



〜腹減ったぁー!!」

「はいはい。」

取り敢えず心の中で笑っといて、八戒に言われたとおり空腹を訴える悟空に少しずつサンドイッチを渡した。










『次のパン食い競争に出場する選手は、朱雀門までお集まり下さい。』

「あ!これ俺だ!!」

「頑張って!悟空!!」

「うん、行ってきまーす!」

元気に赤い門の所ヘ走って行く悟空を見送りながら、今だぶつぶつ文句を言っている三蔵に声をかける。

「ねぇ三蔵。」

「…何だ。」

木陰の近くを陣取ったけどそれでも炎天下の中法衣を着ている三蔵は暑そうで、冷たいお茶を差し出しながら気になってた事を尋ねてみた。

「どうして三蔵が運動会なんかに参加してるの?」

「…」

あれ?黙秘?
三蔵の事だからこの暑さも手伝って絶対文句言ってくると思ったのに…。

「悟空はこういうお祭みたいなの好きそうだから分かるんだけど、三蔵は…ねぇ?」

好きじゃないでしょ?って言う言葉を飲み込んで顔を覗きこむけど、視線を外してただ苛立たしそうに手に持っている扇子でバタバタ扇いでいる。

「な〜に坊主と戯れてンの、チャンv」

「悟浄。」

ポンと肩を叩かれ振りかえるとそこには若干お酒の匂いをさせた悟浄が居た。

「悟浄…お酒飲んだでしょ?」

「ん〜…ちっとね。」

親指と人差し指で僅かな隙間を作ってあたしの目の前に差し出す。
確かにその言い方だとちょっとって感じだけど・・・。

「お酒飲んだあと走ったら倒れちゃうよ?」

「悟浄サンそんなに弱くないから大丈夫vそれより三蔵とナニ話してたの?」

悟浄が理由を知ってるのかどうか分からないけど、このまま喋らない三蔵に聞くよりは手っ取り早い気がして同じ質問を悟浄にもしてみた。

そして返ってきた答えは以外と単純なものだった。

「町内会主催の運動会に参加出来るのは女含めた5人1組のチームなんだよ。」

「ほぇ?」

「んで、優勝者には豪華賞品が貰えるんだとさ。」

「へぇ〜豪華賞品。」

さすが町内会主催!色んなお店が入ってるからあちこちから色んな物貰えるんだろうなぁ。

「…まぁ俺が八戒から言われてるのは、これだけは死守しろってだけだけど。」

「死守?」

あたしの目の前に出された紙切れには綺麗な字で何か書かれていた。
それが読めなくて眉を寄せていたら、悟浄が上から順番に読んでくれた。

「『大型冷蔵庫、洗濯機、米10Kg、羽毛布団、トースター他我が家に無い物・・・等』」

「…随分生活に密着したものばかりだね。」

「うちのは大分古いからな。この機会に買い換えたいらしい、アイツ。」

買い換えたいけれどお金は使いたくない…町内会主催運動会へ参加費を5人分払ってこれらを手に入れようと言う所がいかにも八戒らしい。
悟浄と二人で顔を見合わせて苦笑していると、八戒があたし達の名前を呼んでいるのに気付いた。

、悟浄!悟空が次、走りますよ!」

何時の間にか競技は始まっており、一番手前に悟空が立っているのが見えた。
わわわっあたしも悟空の応援したいよ!!

「僕の前なら見やすいですよ。」

「ありがとう、八戒。」

「保護者サンはそこでイーのかよ。」

「…死にたいのか、貴様。」

『位置について…ヨーイ  ドン!』

やはり1競技1競技に賞品がかかっている所為か、何処の家の応援もかなり熱が入っている。

「・・・凄い。」

悟空の応援をする前に回りの熱気に負けそうになる。
くぅ!でも負けてられない・・・悟空の応援しなきゃ!!

「頑張れー悟空!!」

悟空は他の参加者達に比べて大分背が低い、しかもこの競技場やたらグラウンドが広いからパンまで距離が結構ある。

「よーっし!いけっ猿!!」
「これに勝てば新しいトースターですよぉ〜」
「・・・八戒、その応援ちょっと違う。」

あはははと力なく笑うあたしの目の前を悟空が通り過ぎ、後ろ手に軽くピースをしていくのが見えた。
他の人達が必死でパンに飛びつこうと飛び跳ねてる中を器用に通り過ぎ、一番端っこにあるパンにひょいっと飛びつくとそれを咥えて何食わぬ顔でゴールに飛び込んだ。

「きゃぁ〜っ!悟空一番だっ!」

隣にいた悟浄の肩をバシバシ叩いて興奮していると、その悟浄はリストの中にあったトースターにバツをしていた。

「よっしゃぁ〜まずトースターイタダキ!」

「・・・だからね、悟浄。それなんか楽しみ方違うって・・・」

八戒も悟浄も・・・今日は趣旨が違う、そんな気がするのは気のせい?










『短距離走に出場する選手は、青龍門までお越しください。』

「よっしゃぁ〜!次はオレか。」

「頑張ってね悟浄!」

「おうっ!チャンが応援してくれンならバリ余裕よ♪」

ニヤリと笑った悟浄が急にあたしの手を取ってじっと目を見つめる。

「んで、1位取ったらナンかご褒美くれる?」

「え?」

炎天下で熱くなってるあたしの顔が更に赤くなる。
毎度の事だけど、至近距離でこの笑顔は反則だっ!

「なぁ・・・」

更に距離を詰めようとする悟浄の頭にバシーッと言う音が聞こえたと同時に、あたしの手はいつの間にか悟浄から離れ八戒にしっかり掴まれていた。

「・・・とっとと行け!」

「これで1位を取れたらお米が貰えますから、明日の食事の為に精一杯走ってください。」

「・・・っつ〜っ。わーったよ!行きゃいいんだろうが行きゃ!!」

殴られた頭を擦りながら悟浄は指示された門の所へ歩いて行った。

「油断も隙もねぇな。」

「そうですね。」

「え?何が!?」

三蔵と八戒が何か小声で呟いてるのが聞こえなくて、聞き返したら・・・八戒はいつもの笑顔であたしの頭を撫でて、三蔵はあからさまに視線を他所に向けてしまった。

「???」

「悟浄の次は八戒、お前だな。」

「えぇ。ちょっと競技長めなのでその間をお願いしても宜しいですか?」

「あぁ。」

「八戒も何か出るの?」

この二人にしつこく話を聞こうとしても教えてくれない事は分かりきっているので頭を切り替えて八戒の出場する競技について聞いてみる。

「えぇ、悟浄の後にある長距離走に出ます。」

「どれくらい走るの?」

「そうですね・・・大体このトラック3周くらいだと思いますよ。」

「・・・この暑いのに?」

「はい。」

さっきから競技の合間合間に入る放送で、急病人が多発してるって八戒言ってたよね。
今日は暑いし、今年は例年に比べて賞品が結構いいものが多いから更に白熱してるって悟浄も言ってた。
それなのに長距離なんて・・・。

「大丈夫ですよ。僕、こう見えても結構持久力ありますから。」

「でも・・・気をつけてね?」

「はい。応援、お願いしますね?」

「勿論!」

「それじゃぁ行って来ます。」

にっこり笑顔で立ち上がると、八戒は両隣の人に挨拶をしてから玄武の門へ向けてゆっくり歩いて行った。

「大丈夫かなぁ二人とも・・・」

「心配するな。」

「でもさ・・・」

「普通の人間がアイツ等に敵うわけないだろう。」

三蔵が煙草を吸いながら携帯灰皿の中に器用に灰だけを落として再び口にした。
・・・あ、そっか。忘れてたけど悟浄は半分妖怪の血が入ってて、八戒は妖怪なんだっけ。
それだったら普通の人には勝てるよね・・・って、それっていいの!?反則とかじゃ・・・。
そんな風にあたしが考えてるのが分かったのか、三蔵がニヤリと笑ってあたしを見た。

「気付かんヤツが悪い。」

あ、キッパリ言い切った。

まぁ確かにね、あの近所付き合いの上手い八戒が妖怪で、女の人や意外に子供に慕われてる悟浄が半妖怪とは誰も思わない・・・か。
腕を組んでうんうんと納得してたら三蔵に肩を突付かれた。

「・・・馬鹿が走るぞ。」

「え?」

言われて視線を上げると、悟浄がスタート地点に立ってなんだか不機嫌そうにこっちを見てるのに気付いた。
うっわっ!応援するって言ってたのに三蔵と話してたから怒ってるの!?
慌ててその場に立ち上がると両手を口に当てて思い切り息を吸い込んだ。

「ごじょー!!頑張ってぇーー!!」

その声が届いたのか、それともあたしの視線がそっちに向いてるので分かったのか・・・悟浄が投げキッスを返してくれた。

うわっ・・・投げキッス貰っちゃった。

顔を赤らめて立ち尽くしていると三蔵があたしの両肩を掴んでその場に座らせた。

「大人しく座ってろ!」

「は、はいっ!」

『それでは第5走者、位置について・・・ヨーイ  ドン!』

「うわっ・・・皆速っ」

今年はお米が不作で高い為、この競技には各家庭で一番足の速そうな人達が参加していた。
それでも一応周りと年齢差がありすぎるとまずいと言う事だろうか、このレースでは悟浄と同年代らしき人が走っている。
でも一番驚いたのは・・・。

「きゃぁ〜っ悟浄ぉ!」
「やだっ、悟浄が走ってるわよ。」
「あははははっ」
「案外足速いじゃない。」

・・・と言う、外野の女性の声の多さ。
悟浄の名前をお姉さん達が連呼してる事で気付いたんだけど・・・この辺はさすが悟浄、と言うべきだろうか。

お酒を飲んでいた所為かゴール直前で体勢を崩しかけたけど、それでも何とか1位でゴールを決めた悟浄は・・・何だか凄くカッコよかった。

「お〜らよっ!明日の夕飯だっ!!」

「わーお米だお米v」

肩に担いでいたお米をドサッと下ろすと、着ていたTシャツを脱いでそれで汗を拭い始めた。

「ったくこの暑さ、やってらんねェよなぁ〜」

「でも悟浄、すっごくカッコよかったよ!」

「マジ?」

「うん!」

「やっぱ・・・勝利の女神がついてたからな。」

すかさずあたしの肩を抱き寄せて耳に囁く行動力は・・・素早い。
そのまま額がくっつきそうになった瞬間、あたしの体はグイッと引っ張られ気付いたら三蔵の胸元に倒れこんでいた。

「!?」

「っ痛ェ―――!!」

悟浄が頭を押さえてその場にうずくまっている。

「な、何!?」

「・・・やりすぎだ、馬鹿が。」

三蔵が睨む視線の先には次の競技に参加するためグラウンドの真ん中にいた八戒。
その手には・・・小さな気功の玉が今まさに消えようとしている所。

「・・・まさか、今のは・・・」

「アイツ以外に誰がいる。」

どんなに遠くだろうと相手に攻撃を命中させる集中力は凄いなぁ・・・ってそう言う問題じゃない!!
ちなみにこんな騒ぎの中、悟空は午前のお菓子を平らげてしまいお腹いっぱいで幸せそうに木陰でお昼寝をしていた。










『午前最後の競技になります長距離走、こちらは上位3名に賞品が与えられます。』

「何て言ってるの?」

「上位3位に賞品が出るそうだ。」

「へぇ・・・」

「これって電化製品だったはずだぜ。だからアイツ自分で出るって・・・」

八戒のミニ気功を後頭部にくらった悟浄も復活し、三蔵と悟浄の間に座って八戒の応援をすべくスタートを待った。

『それでは位置について…ヨーイ  ドン!』

一斉に選手がスタートし、八戒は大体真中ぐらいを走っていた。
作戦なのかほとんどの人が凄い勢いであたし達の目の前を駆け抜けて行くけど、八戒はいつもと変わらぬ笑顔でこっちに向かって手を振る余裕すらある。

「…余裕だね。」
「余裕だな。」
「…決まったな。」

あたし達の予想は大当たり。
意外に広いこのグラウンドをなめていたのか、1週目で勢い良く駆け抜けて行った人達は一人残らず最終グループに転落してしまった。
自分のペースを守って走る、八戒を含む10名ほどが先頭グループに変わっている。

「八戒頑張ってー!!」

2度目にあたしの前を通りぬける八戒を応援する。

「このままいけば冷蔵庫はお前のモンだ!」

「…2位だと電子レンジ、だそうだ。」

「ちなみに3位は?」

パンフレットを見ている三蔵に尋ねると、小声であたしと悟浄に教えてくれた。

「…トースター。」

それを聞いた瞬間ラスト1週を示す鐘が鳴り響いた。
八戒は現在先頭から…3番目。

「はっか〜い!!頑張ってー!せめてあと1人!」
「おいもうトースターはあるからいらねーぞ!1位か2位になっとけ!!」

正面を駆け抜ける八戒に何て応援をしてるんだ…って思ったけど、今まで笑顔だった八戒が急に真剣な表情になって足を速めた。

「あっ!」
「おおっっ!!」

見る間に八戒が2位の人に追いついて、ゴール直前で最後の1人に並んだ。

「はっか〜い!!」

最後の声援が届いたのか、ゴールテープを切る直前で八戒が1歩前に出た様に見えた。
勝負は写真判定に持ち込まれた…と、三蔵が教えてくれた。
果たして八戒は冷蔵庫を手に入れるのか…それとも…。





『先程写真判定を執り行いました長距離走ですが、1位は…猪八戒さんとなりました。』



「よっしゃー!!」
「やったぁ〜!!」

悟浄に飛びついて喜びを分かち合って入る所に三蔵が眉を寄せて間に入ってきた。

「お前、今何て言ったのか分かったのか?」

「え?」

「言葉、分からないんじゃなかったのか。」

…言われてみればそうだ。
でも何となく八戒の名前が聞こえた後に悟浄がガッツポーズをしたから、あぁ八戒が一番になったんだなぁって思っただけで…って言ったら三蔵怒るんだろうなぁ。

「まぁそんなのいいじゃねぇか!これであのオンボロ冷蔵庫ともおさらばだ♪」

「これで氷が出来るのじっと待たなくても良いんだね!」

「おう!好きな時に氷を入れて冷たい飲み物、飲めるぜ!!」

あの冷蔵庫にはちょっと苦労したんだよね。
水を入れて氷が出来るのを待っても…ゆっくりゆっくり時間をかけて作ってくれるから、大量に使った後だとちょっと欲しい時に使えない。
もうどうでもいいと言うように溜息をつく三蔵を余所に、悟浄と冷蔵庫はどんな大きさかとか中に何を入れたいかって話しで盛り上がっていたら…八戒が目録を持って戻ってきた。

「お帰りなさい八戒!凄かったねv」

の応援のおかげですよ、ありがとうございます。」

「なぁ冷蔵庫どれ位のでかさだって?」
「色は何色?」

「あははは、皆さん気が早いですねぇ。去年まではどんな物でも現物支給だったんですが、今年から大きな物は後日配送になったそうですよ。」

そう言うと八戒はゴールした後に書いたのか、何やら宅急便の控えのような紙を目録以外に持っていた。

「今家で使ってる冷蔵庫よりちょっと大きいですが、新しい物をくださるそうです。」

「…随分気前がいいな。」

「町内会長さんが奮発して下さったそうですよ。」

にっこり笑顔でそう言った八戒を悟浄がちらりと横目で見ていた。
それが何だか意味深な感じがして、お昼の準備の為八戒がちょっと席を外した瞬間悟浄に声をかけた。

「…悟浄、さっき何か言いたそうじゃなかった?」

「んあ?」

午後は競技が無いから大っぴらにビールを飲んでいた悟浄がその手をピタリと止め、キョロキョロ辺りを見まわすと手招きしてあたしを近くに呼んだ。

「町内会長って奥さんに頭上がんねぇってウワサがあんのよ。」

「へぇ…」

「んで、その奥さんのお気に入りが…」

「も・・・もしかして!?」

「そのもしかして、なワケよ。」

自然とあたしと悟浄の視線が涼しい所に置いてあったお弁当の入ったバスケットを手に持ったまま、奥様方と談笑している八戒に向けられた。

「…あたし、どうして運動会の景品が電化製品なのか、分かった気がする。」

「やっぱそう言うこったろうな…」

どちらとも無く溜息をついて、今はただ八戒が持っているお昼がここに届くまでにどれくらいの人に声をかけられるのかを見守っていた。





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